痛みがある場合の運動療法

Exercise with Pain

痛みがあっても運動を諦めない

 「膝や腰の痛みがあるから運動できない」とおっしゃる方も多いのですが、実は痛みがある場合も運動療法は有効です。運動不足はかえって痛みを悪化させる場合もありますし、運動療法により血糖だけではなく、痛みも良くなる場合もあります。痛みがあるからといって安易に運動を諦めず、どのように運動していけば良いのか、主治医と相談しましょう。
 なおここでは慢性的な痛みについてご説明します。急な痛みや怪我による痛みの場合は、別途主治医と相談しましょう。また初めて痛みを感じたときは、安易に自己判断せず一度は整形外科を受診してきちんと診断を受けることをお勧めします。

腰の痛み

 患者さんがおっしゃる痛みの中でも多いのが、腰痛、膝関節痛、股関節痛です。それぞれを見ていきましょう。まずはじめに腰痛から説明しましょう。腰痛のある患者さんの腰椎のレントゲンやMRIを取ると、変形性脊椎症や腰椎椎間板ヘルニアなど様々な異常が見つかります。ですが必ずしもこれらの異常が痛みの原因となっているとは限りません。実は骨の変化以外に筋肉の問題が大きいからなのです。つまり腰痛の多くは実は運動不足が非常に大きな原因となっているということが分かってきています。ですから骨の手術を行ったとしても必ずしも良くなるとは限りませんし、そもそも脊柱の手術は大変大掛かりでリスクもある手術なので、気軽に行えるものではありません。ですから、整形外科を受診しても、痺れや麻痺があるなど、よほどの重症でなければ手術までは勧められず、対症療法になることがほとんどでしょう。
 腰痛の大きな要因の一つが運動不足ですから、腰痛に対しても運動療法がとても大事なのです。実際、日本整形外科学会による「腰痛診療ガイドライン2019」においても、腰痛に対しては運動療法が有効であり、運動療法を行うことを「強く勧める」と推奨しています。
 腰痛に対する運動療法は、特にこの1つが良い、というものはないようです。体幹全体を鍛える様々な体操がお勧めで、医薬品メーカーのエーザイさんが腰痛の運動療法の分かりやすいサイトを作っているので、ぜひ一度ご覧になってみてください。

膝の痛み

 腰痛と同様に多いのが膝関節の痛みです。膝関節痛の原因のほとんどは変形性膝関節症という病気で、膝の軟骨がすり減ることによって痛みが生じています。肥満と加齢が大きな原因と言われています。残念ながらすり減った軟骨を増やすことはできません。本当に良くならなければ関節自体を人工関節に取り換えてしまう手術を行いますが、気軽に行える治療ではありません。整形外科では膝関節にヒアルロン酸注射なども行われますが、これも一時的に症状を和らげる効果しかなく、完治させる効果ありません。膝関節性の一番の治療は、やっぱり運動療法なのです。
 膝は大腿四頭筋という、太ももの前側の筋肉が支えており、これを強くすることで、結果として膝を守ってくれるようになります。詳しくは整形外科学会が変形性膝関節症の運動療法を紹介していますので、ご覧ください。あまり長時間歩いたりするのは、膝の負担になるので避けた方が良いでしょう。水中ウォーキングはとてもオススメです。水の浮力で膝に負担をかけずに運動できるからです。自転車(エアロバイク)も実はオススメです。一見膝を使うように見えますが、サドルで体重を支えているため、実際には膝に負担はかけずに下肢の筋肉を強くすることができるのです。


 

痛みを予防するために

 そもそも腰痛や膝関節痛を起こさないようにするには、どうすれば良いのでしょうか?どちらも肥満や運動不足が原因ですので、定期的な運動習慣を身に着け、適性な体重を維持することが重要です。また運動の内容も重要です。特に体重が多い人が、走ったり階段を下りたり、縄跳びをしたりなど、重力がかかる運動をすると、膝や腰への負担が大きくなります。ではどのような運動が重力がかからないかというと、1つは水泳や水中ウォーキングです。これは水の浮力によって重力がかかからないので、関節に負担をかけずに運動をすることができます。でもプールが近くに無かったり、行くのが億劫だったり、また今はコロナも心配で気軽にはいけない方も多いかと思います。そこでもう1つのお勧めが、エアロバイクです。エアロバイクは一見膝を使うように見えますが、サドルで体重を支えているため、膝関節への負担はほとんどありません。ホームセンターなどで2万円前後で販売しています。折り畳み式のものもあり、それほど音も出ないので、アパート・マンションにお住いの方でも問題なく使えるしょう。エアロバイクを購入するのが難しい場合は、階段の上りも有効です。普通に歩くのに比べて筋力は使いますが、関節への負担は少ないです。ただし階段の下りは要注意です。普通に下ると膝関節に大きな負担をかけます。上りは階段、下りはエレベーターを使えれば理想ですが、上った以上、下らないといけない場合も多いでしょう。その場合、なるべくゆっくりと階段を下るのがコツです。重力に任せてストンと下るのが良くないので、普通の2倍~3倍くらいの時間をかけてゆっくり下ることで、関節に負担をかけずに筋力を使って階段を下りることができます。怪我をする危険も減りますし、ご自宅の階段で運動する際などはぜひ試してみて下さい。

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