インスリン補充が必要なケースは、大きくわけて3つあります。1つは、ものすごい高血糖の時です。良くあるのは、健康診断を受けていなかったり、受けていたのに放置していて、初めて医療機関を受診したときにはすでに血糖が200mg/dLを超えてしまっているようなケースです。こういったケースでは、高血糖になることで膵臓が疲弊する→インスリンの出が悪くなる→ますます高血糖になる、という悪循環に陥っています。そこでインスリンを補充することで、血糖を良くする→膵臓の負担が減る→インスリンの出が良くなる、という良い循環に切り替えてあげるのです。こういったケースでは、ほとんどの場合インスリンを使うのは短期間ですみます。入院した場合は2週間~2、3か月くらい。外来で治療した場合でも、数か月~半年程度でインスリンが不要になり、飲み薬での治療に切り替えることができます。
2つめは、そもそもインスリン不足が糖尿病の原因のケースです。やせ型~普通体型で、特段運動不足でもないし、食生活もそれなりに気を付けているのに、でもHbA1cが高い方というのは、インスリン抵抗性が糖尿病の原因ではなく、そもそもインスリンが足りていないのです。これは生まれつき膵臓の力が弱いのが原因で、ご本人に原因があるわけではありませんし、予防することも難しいです。遺伝的な要素が強く、ご両親のいずかも糖尿病を持っているケースが多いです。この場合、一時的に膵臓が疲れているだけではなく、もともとインスリンを出す力が弱いので、継続的にインスリンが必要になります。
3つめは、長年糖尿病を患っている場合です。糖尿病になった当初は太っていたり、生活習慣が原因だったりして、飲み薬で治療しているのですが、薬だけでとりあえず血糖を下げてしまって、しっかり生活改善できていなかったりすると、10年~15年と経つうちに徐々に膵臓が疲弊していき、インスリンが出なくなっていくのです。いつのまにか体重も落ちていき、内服も3種類、4種類と飲んでいるのに、でもHbA1cが下がらない。こういったケースでも、やはりインスリンが継続して必要になります。こうなる前のもっと早い時点で、しっかり糖尿病を治療することで、膵臓が疲弊してしまうのを防ぐのが本来の治療ですが、後悔先に立たずです。世の中ではこの3つ目のパターンだけが知られるようになってしまい、「インスリンはどうしようもなくなったときの最後の手段だ」というイメージが付いてしまったようです。